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まともな生活を送っている一般人として冷静に考えれば、誰だって麻雀が強いならば「雀荘の経営者、または従業員」として生き延びていくほうが正しい姿だと思うだろう。
ところが、Tは、そういう道を選ばなかったのだ。 いや、正確に言うと、雀荘の顧問として活躍した時期もあったようだが、それも長続きはしなかったようだ。
なにより、麻雀学会の会長職にあった時期もあるというから、その疑問はなおさらである。 ならば、小説のようにイカサマ師となったか、などと言つては、本人に殺されてしまう。
彼は、そういう偽ギヤンプラーが大嫌いなのである。 「ならばどうして、普通に麻雀プロとして生活しないのか?」その理由のひとつは「処世の術を持たなかった」ということだろう。
どんなに凄い技があろうとも、それがストレートに生涯の飯のタネを確保する保障とはならない。 どこかで徒党を組んで、組織に属して助け合って生きていく手段を取らなければ、世の中で生きていくことは、基本的には不可能だ。
それが一般的な考え方だと思う。 しかしTの場合は、いったんはその道に入ったものの、徒党を組む資質がなかったために、その社会から弾き飛ばされたのだろう。

いや、弾き飛ばされたという表現は不適当か。 彼の場合、飛び出したのだ。
この本は、麻雀世界のことを書く目的ではないし、それについての取材もしていないので詳しいことは省略するが、とにかく、Tはギャンブルの腕は凄いが、処世術の才能は、まったくといっていいほど持っていなかった。 「Tは、人100倍、プライドが高いからね」自らそんなことを言う。
また、こんなことにも胸を張る。 「命と同じく大切なお金と、意地のどちらを取るかとなれば、迷わず意地を取るよ」もちろん、一般人の感覚では「命の次に」と言うべきところだが、これを「命と同じく」と表現するところが、切実なるフリー生活者のリアルな表現力。
こういう表現の仕方も、T流の人となりが表れている。 ユーモアな精神を持つなのだ。
いや、ユーモアはこれから先、いくらでも紹介していくからいいとして、この発言のポイントは「意地を取るよ」の部分。 とにかく意地っ張りなのである。
ここで頭を下げておけば、いや下げなくても、ほんの一瞬でいいからここで黙って我慢さえすれば、定期収入を確保できるという場面でも、プライドを捨てない。 その結果、野宿してしまう。
ギヤンブラーを名乗る人々にはプライド高き奇人が少なくないが、彼の場合はその格が違うのである。 自ら「人100倍」という表現を使っているが、それは過剰ではなく、まったく本物。
ずばり言ってしまえば、まったくもって「しょうがない人」なのである。 組織的な活動が主な生きる道となる麻雀の世界では、うまく世渡りできなくて当然の人なのである。
しかし、ここから先がまたTらしいところ。 普通の人の感覚では、麻雀の頂点を極めた人←フータロー。
とくれば「落ちぶれた」と考えるところだが、そんなことは本人はさらさら思っていない。 現在の生活は、あくまでもギヤンプラーとしての生き様の中間点にしか過ぎないと、考えている。
実際、初対面の席で、ぼくはある意味で大きく裏切られた。 宿なしの馬券師と聞いて、紙袋か何かをぶら下げた、いかにも浮浪者といった人物を想像していたのだが、実際はぼくよりも高級なジャケットに身を包んだ、小柄な紳士だったのである。

「この人のどこがフータローなの?」ぼくとしては、劇画的な絵面を描いていたものだから、この登場の仕方には正直言って期待はずれだった。 また、当時は編集スタッフも含めてみんなが、Tを普通の人間と勘違いしていたから、よく言われたものである。
「どうして俺が宿なしってことにこだわるのかね。 今はカプセルホテル暮らしなんだから遣うじゃない。
Nクン、正直にならなきゃダメだよ」劇画的な主人公を思い描いていたぼくとしては、宿なしのほうが絵になると考えていたのだが、そんなゴマカシはきかないのである。 ぼくのところに送られてきた手紙の中に、こんな一文かあった。
ギャンプルで身を滅ぼす、とよく言われますが、私の場合は芸は身を助けるで、ギャンブル(麻雀、花札を含めて)で、身を助けられて来ました。 ギャンブルでいい思いをしてきた。
それより何より、ギャンブルがなかったら、とっくに死んでいた、くたばっていたでしょう。 なんせ貧乏と、子供の頃から病気で苦しんでいましたから(一応、日本橋に住んでいた頃は、おぽっちゃまだった。
これは記憶があまりない頃の話。 何にもなりませんネ)。
小遣いのないときは花札で稼ぎ、競馬、麻雀でいい思いをし、麻雀では世に出ることもできた。 そして、競馬・ウマヨミで、三途の川をわたりながら、何度も引き返すことができたのです。

でもこういう生き様、テメエで書いていると照れますね。 N君、テキトーに書いてくださって結構です。
そもそも、こうしてぼくのもとに手紙を送ってくるようになった経緯からして常識人には理解できないかもしれない。 Tが、なぜ手紙を寄こすようになったかというと、最初はどうもぼくを純正ギヤンブラーに育てようとしていた節があるのだ。
対面した席で「競馬は大好きです」と言ったばっかりに、そういう関係になってしまった。 ここが重要ポイントである。
Tにとって、競馬はギャンブル。 それ以外にない。
だから「競馬が好きです」と発言する人間は、みなギヤンブラー予備軍と見なされる。 それで「いや、馬券じゃなくて馬が好きなんですよ」などと言おうものなら「今すぐ競馬をやめなさい」と引退を勧める。
「ギャンブルをやるなら、腰を引くな。 とことんやれ」これが彼にとっての競馬なのである。
ナリタブライアンのレースを京都まで見に行ったSが「いやあ、感動しましたよ」と感想を述べたところ、「局長、それじゃあ競馬に勝てませんよ。 競馬でミーハーしちゃあ、終わりです」と、注意されたという。
手紙の目的はすぐに『馬読み』担当ライターへの助言という形に変化していくが、それは単に、ぼくの博才のなさがバレてしまったからだ。 もしも、私がギャンプラーとして生きていく素質があれば、今でも徹底して師匠から弟子へのアドバイスといった形をとっていたかもしれない。
それでも、ギャンブル勝負学に関するくだりは、偽キャンプラーであるぼくなど「もう競馬はやめてしまおうか」と悩んでしまうほど、徹底したストイック主義を貫いた内容となっている。 本物のギャンブラーであるTにとって、人間とは、ギヤンブラーとそれ以外の人種の二種類しか存在しないのである。

その思想を踏襲して言わせてもらうなら、Tという人間は、我々と同じ人間であることには違いないのだが、根本的な部分で違う「ギャンプラー」という特殊な種族なのかもしれない。 まさに幻想と戦う男。
そんな劇画や小説のような発想を抱かせてしまう存在感を持つ男。 それがTなのである。
参考のため、Tからの手紙にあったギャンプラーの条件を挙げておこう。 個々の詳しい内容は、これから順に説明していくことになると思う。
Tが実践する『馬読み』は、彼が表現するところの「地獄」の路上生活者時代に、その基礎が築かれたという。 「地獄に居るからこそ、見える世界がある。

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