競輪を徹底比較
どういう状態で、どんな状況で的中させたかを知って貰うと、なお価値がわかって貰える。普通、この手の原稿なら、何とでも書けるものだ。
また、オーバーに書くのが当たり前だ。麻雀の世界でも、なぎ倒した相手が5万人とか、 年間無敗の男などと言う雀士がいる。
少なくとも、現役のときそう言って貰いたいものだ。私の場合は同時進行。
しかも証人、というよりこの原稿はすぐ社長が読むのである。もちろん、結果論(少なくとも後から書いたこともない)を書いたことも一度もないのだ。
命を賭け、そして予言通りに勝ったのだ。競馬場で社長が知り合いに会い「レースも見ない」と言ったら「それじゃ金儲けだけだ」と言った。
仙台に居た頃、雀荘のオーナーと福島競馬場に行き、たまたま私は負けた。翌日、オーナーは言ったものだ。
「馬を見てやるなんて邪道じゃないか。やはり能力のない馬は来ない」言うに事欠き、邪道には開いた口がふさがらなかった。
ペーパーでやるほうが邪道、乞食ではないか。当たる当たらないは別にしても、神聖なる馬読みが邪道で、オッズと睨めっこの宝くじ買いが正道なのか。
また、能力云々にしても笑わせる。別にGI馬の中にアラブの未勝利馬が入って走るわけじゃない。
レースはクラス別になっているのだ。先のレースも見ない云々にしてもしかり。
誰だってレースを見たい。そのほうが楽しいだろう。
が、負けて楽しい勝負事などないのだ。それに、誰だって儲けようと思ってギャンブル場に来るだろう。
それに、私の馬読みでは儲けようなんて言葉は使わないのである。またレースを見るにしても、ペーパーでやる人とは見方が違う。
馬読みの場合、レース展開その他のことはいっさい関係ない。逃げればとか、出遅れればとかよく言うが、出来が良ければ飛び出せる。
入れ込んでいたり、気合いがないから、出遅れたり、逃げられなかったり潰れたりするのである。レースはあくまでも付け足し。
勝負はパドックで終わっているのである。昨夜からチラホラしている雪が気になったが、朝起きてみると積もってはいなかった。
しかし、よく見るとまだ雪は降っている。家を出て、雪の中を畳戸まで歩く。
電車に乗り、府中本町まで。雪なのに、この時聞から電車は満員だった。
東京鵡馬場、8時制分着。パドックに両かう。
すでに馬はパドックからスタンドのほうに移動しかけている。えーと、Tさんは。
いたいた。雪の中、傘も差さずに(私も差していないが)パドックを見ていた。
そして、馬がいなくなってキョロキョロと私を探している様子。Tさんに「帰りですね」と言うと「ウン」と言ってパドックを引き上げる。
Tさんも5808円の一点勝負だった。私は 万円ぐらい勝負するべきだった。
せっかく今日は180万円も持ってきているのだから。オツズはB倍まで下がっていた。
Tさん、Yクンと喫茶店に入って競馬談義1時間。今朝の夢見で4レース、7―8とはっきり見たので買っていたが、7で決まったようだった。
Tさんに5万円渡す。朝の第1レースで、ずばり「見えた!」宣言。
ためらいなくミキリでお帰りコース。これぞ馬読み勝負の基本形だ。
このときの出走馬が、具体的にどうよく見え、どう悪く見えたかはTの日記にも記述がないので不明だが、一本勝負で決まるときは、往々にして理由などない。恐らく馬読みの基本姿勢に合った2頭が、くっきりと浮かび出たのであろう。
ここで注目したいのは、いきなり一本勝負に出た、Tの心理状態だ。もちろん、東京競馬場での勝負で、連勝を続けているという自信もあったが、その中間の川崎、一人勝負で負けている点も見逃せない。
本人にとって、この日の第1レースは負けられない勝負だったのである。ネタをなくしかけて再び土壇場となった(この場合は、あくまでも生活の問題。
局長との信頼関係は絶好調である)場面で燃えるという、ギヤンブラー・Tらしい勝利である。またそうやって、本番勝負のために勝負師の意気込みを自ら奮い立たせるという芸当は、とてもじゃないが一般人には真似できない。
川崎競馬の日記の部分で後半「馬は見えているが、馬券で失敗する」という場面が見られるが、この日の東京競馬場での本番勝負は、それが単なる強がりではないことの証明ともなった。馬読みは、Tの言葉通り本格化しているのである。
降り止まない雪は、夜半から積もり始め、翌日の日曜日は開催中止。波に乗っている時期だけに悔やまれる雪である。
果たして、この雪は勝負に影響しないのか。と心配しながら日記を読み進めていくと、この雪の目、T個人の大問題が持ち上がっていた。
隠していた毛布がなくなったのである。一般の人には何のことかわからないだろうが、現在のTは依然としてフータローである。
競馬勝負に勝ち続けているうちは、ホテル暮らしが出来るが、もしも・のときは、また地獄(つまり路上生活)へ舞い戻らなければいけない。それに備えての毛布なのである。
雪で心配になって見に行ったら、跡形もなくなっていた。そのときの悲しみの記述を(もちろん、これも同時進行)2月 日記述の『馬読み日記』から抜粋してみよう。
個人の勝負でも、もう1敗も出来なくなった。毛布がきれいになくなっていた。
一番恐れていたことだ。駐車場の隠し場所がキレイに掃除され、毛布どころかダンボールも何もないのだ。
やっとひとつずつ集めた毛布(ひとつはゴミ袋の中に入れていたが、その袋も役に立っていた)だった。そして、やっと順調に行っていた隠し場所、その両方がダメになったのだ。
フータローとしては、命を断たれたようなものだ。もし社長と出会わなかったら、もし昨日負けていたら(それは考えられないが)この大雪の中、一晩中さまよっていたところだった。
もう冬山遭難とか生き地獄なんて世界じゃない。凍死の世界だ。
今は、アオカンのことなど考えていなかったが、無いことを知るとプレッシャーがかかる。しかし考えてみれば、逆にこのことはよかったのではないか。
毛布というのは、いわば保険である。競馬制覇への道を突き進むTにとって、保険は必要ないだろう。
などと思うのは、傍観者の勝手な盛り上がりなのか。確かに、毛布がなくなったという事実は、勝負師・Tに大きなプレッシャーとなったのかもしれない。
またしても傍観者の立場で言わせてもらえば、こうして一般人では考えも付かないところでプレッシャーを感じるところが、またTの魅力なのである。もちろん、プレッシャーも、本人にとっては「勝負に燃える」要素でしかない。
日曜日のうちに雪はやみ、翌日 日(月)の代替開催が決定。当然のごとく2人は東京競馬場に向かった。
1レース万馬券を的中させた社長。しかも私と馬を見ての的中である。
これほど嬉しいことはない。そして私は外したのに、御祝儀を 万円くれた。
最高の気っ風だ。やはり私が会う前から気に入っていた人だけのことはある。
勝負事には気っ風が大切。こういう気っ風があるから勝てるのである。
別におだてているのでも世辞を言っているのでもない。生まれてこのかた、お世辞ところか人を嘗めたことも、人の話に「ああそうですネ」と相槌を打ったこともない人間だ。
本物の人でなければ私は嘗めることはしない。社長が目を付けて2着に入った馬を、私は外して1着3着でやられた。
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